Newsニュース

2019年度カナダ語学研修9日目「レッドロック」

2019.7.15

中・高共通関連

Twitter facebook

あれ、チキン、あなたここにいていいの。朝、コツコツ音が鳴っているので廊下へ出ると、床をつつくチキンの姿がありました。

続いてもう1羽屋内に入ろうとした折に、プリセラが庭から戻ってきました。どうやら彼女が網戸を閉めるのを忘れてしまったようです。急いで庭に戻します。その後、ステラが語勢を強めて説教していました。プリセラに対してではなく、チキンに対してです。チキンが説教の内容をどれだけ理解しているかは不明です。

私は今日は教会に行きませんでした。ホストマザーのステラも体調が優れないのか、行きませんでした。ゆっくりとこれからの予定を確認する時間に充てました。帰国する前にお別れが待っています。少しずつお別れの準備を始めなくてはいけません。

さて、ステラは再びシュリンプカレーを作ってくれました。ホストファザーとプリセラの帰宅が遅れているので、先にランチを食べ始めます。13時頃でしょうか、2人が帰ってきました。予定通り15時には出発して、カニを捕りにいくようです。

道具をがさごそ準備しています。15時15分頃、ホストファザーとプリセラとともに出発です。15分遅れです。言われた時間が正確だったことはありません。こんなもの誤差のうちにも入りません。ハイウェイを通って、カニの採集場所を目指します。場所と方法はいくら聞いても、いずれ分かるとか着いたら教えてやるとか言って、教えてくれません。北上していることだけは、なんとなく分かります。

さて、着いたのはシドニーという街です。ビーチがあり、観光で栄えているような気配があります。船も多く停泊しており魚屋さんも立ち並んでいるので、漁業も盛んなのかもしれません。ホストファザーはお年寄りの街とも言っていました。海辺の巣鴨のようなイメージでしょうか。まずは、スーパーマーケットに入り、カニをおびき寄せる餌となるチキンを買います。おお、チキン。

ここから、駐車するのにかなり手こずります。20分ほど同じ風景の中をドライブしたと思います。ホストファザーの運転は荒く、ブレーキの踏み始めもかなり遅いですが、駐車違反だけは絶対にしません。海の近くには停められないと判断すると、私とプリセラを海辺に降ろし、どこかに停めてくると言って消えました。すると、道具を持ったプリセラが勝手にどこかへ行こうとします。待て待て、プリセラ、お父さんはここにいろと言っていたぞ。いつになくしっかりと伝えました。珍しくホストファザーの訛りたっぷりの英語を聞き取れたので、自信を持って言えます。プリセラは父の話を上の空で聞いていたようです。しっかりしてくれ、私なぞ真剣に聞いても分からないことだらけなのだから。

混雑の原因はこれでした。

海辺の広場でミュージックフェスティバルのようなものが行われています。フォーフォー言いながら民が盛り上がっています。

ホストファザーが戻ってきます。プリセラとともに身動きが取れない状況において、彼の帰還は妙なほど安心をもたらしました。

罠となるカゴを組み立てます。慣れた手つきです。漁のライセンスは持っているとのことです。実際に見せてもらいました。年間$22で取得できると言っていました。今年に入ってから11回か12回ほど海を訪れているとのことです。一度入ると出られないようになっていますが、小さいサイズのカニは出ていくように設計されています。

今回初めての試みは、餌ボックスを作ったことです。餌ボックスにチキンを入れます。工作をして作ってきたらしく、これで餌を食い尽くされることもなさそうです。プリセラも初めて見るようで、おもむろに新兵器を取り出す父の姿を、ニヤつきながら眺めていました。

さあ、始めよう。

カゴを海底まで下ろします。

紐をくくっておけば安心です。カゴの設置が終わると、もう1つの罠を準備します。こちらは組み立てが必要なく、チキンが外れないようにくくりつけるだけで準備完了です。いいペースいいペース。

多くの人がカニを捕りにきたのでしょう。至るところに紐がこすれて木がすり減った跡があります。

目線を罠に戻すと、ホストファザーがやらかしていました。罠の外側に餌をくくりつけており、カニさんご自由にお取りくださいという状態です。逆につけちゃったよと言って、やり直します、なかなか厳重にグリグリやっていたので、外すのが大変そうでした。新兵器の発表でいい気分になった直後だったので、不憫でした。

不幸は続きます。ホストファザーは捕ったカニを入れておくバケツに、水を入れようと画策します。バケツの持ち手に紐をくくりつけて、海へ放り投げます。バケツに水が入ったことを確認して、紐を引っ張ります。その途端に、バケツの持ち手は外れ、バケツは静かに海底へと消えました。1つストックを失いました。バケツはあと1つしかありません。残ったバケツの持ち手に紐をくくり始めるホストファザーを、私とプリセラが全力を投じて止めました。それを失ったら終わりなんだよ。今仕掛けた罠も水泡に帰すのだよ。幸い、ホストファザーも自分のリスクマネジメントの不足を自覚したようで、ビーチで海水を汲んでくるように私とプリセラに命じます。バケツを守るため、喜んで行ってまいります。何かあったら電話しろと言って、彼は携帯電話をポケットにしまいました。

さあ、プリセラとともにビーチへ出発です。到着しましたが、当然のことながら、ビーチは水深が浅く、バケツを使って十分な量の海水をすくい入れることができません。腕を伸ばして少しでも水深があるところで水を汲もうとする私の手から、プリセラがバケツを奪います。何をする気だプリセラ。彼女は少し左に岩を見つけ、そこへ片足を乗せて、少しでも浜辺から遠い場所から採水しようと考えたのでした。彼女の足はばっちり浸水しました。残念ですが、進んでそうしたため、救いようがありませんでした。そうしてプリセラが両足を海水に浸してすくった水は、十分な量ではありませんでした。彼女はこれを緊急事態だと察し、父へと電話をしようと提案してきます。プリセラよ、安易に助けを求めるんじゃない。せめてできることは全て手を尽くそう。今度は私がプリセラからバケツを奪い取ります。私はビーチのずっと右側に岩場を見つけました。よし、大人の本気を見せてやる。プリセラ、刮目せよ!背負っていたリュックサックを彼女に預けます。私は岩を5つか6つ乗り越えて、随分浜辺から離れたところに来ました。ここならば、海水をバケツいっぱいに汲むのに不自由しないほどの水深があります。バケツに水は満たされました。次の瞬間、問題発生。重い。海水を入れたバケツが重すぎるのです。おまけに戻る道は岩だらけ。しかし、本気を見せてやると意気込んで岩を進んできた私は、ここで弱さを見せるわけにはいかない。プリセラの前ではヒーローでなくてはならない。そこで、私は可能な限り重さを感じさせない身のこなしで、浜辺へ到着しました。そこからホストファザーがいる場所へは300mほど距離があるでしょうか。プリセラにバケツを持たせるわけにはいきません。必死こいて持っていきます。時折、彼女は心配そうにこちらに目を向けます。その度に私は平静を装います。そんな誤魔化しを300m歩く間ずっと続けました。

戻ると、1度目の罠の引き上げです。ホストファザーが引き上げます。

引き上がったのはちびっ子でした。種類を聴くと、ここで捕れるのはレッドロッククラブというカニだそうです。小さいカニを捕ることは許されていませんので、海へ返します。

ホストファザーはすっかり自信を失い、次は私が罠を海に投げ入れ、引き上げることになりました。思い切り海へと投げ入れます。遠くに着水しました。「Wow. You are a karate master.」と言って、大喜びします。空手と罠の投げ入れは無関係です。10分程度待って、勢いよく引き上げます。私が思うに、罠の形状の関係で、カニは上方から逃げられます。素早く引き上げて、罠に水圧をかけてカニを網に張り付けなければ捕獲は難しいでしょう。大物が2匹かかりました。ベテラン2人は大興奮です。これがどれほど珍しいことなのか、私には分かりません。しきりに「lucky boy」と言って、私を褒め称えてくれます。海の近くに住んでいて、漁の経験が豊富なのかと問われます。海は決して近くないし、漁といえば近くの里山の川で罠を張ってスジエビを5匹捕まえたのと、山梨県の釣り堀で川魚を2匹釣ったくらいです。未経験に等しいでしょう。というより、仮に漁の経験があったとして、罠を投げ入れて引き上げる作業のどこでそれが活きるでしょう。ひとまず、この時点で、今晩カニが食べられることは確定しました。

次も同じようにやってくれと言われたので、次も同じようにやりました。

たった一度の好成績により、おかしな期待を生んでしまいました。期待なぞして欲しくないのに、もう失敗は許されません。褒められたのに、なぜか追い込まれました。祈って待ちます。

大漁でした。基準に達していても、比較的小さいものを海へ返す余裕さえありました。ホストファザーはできる限り持って帰ろうとしましたが、プリセラと私が食べきれないよと言って、逃がしました。大漁は私の手柄ということになっていますので、ホストファザーもすぐに諦めます。一度も失敗せず、「lucky boy」として神格化された状態でカニ捕りを終えました。また、最初に仕掛けたカゴの罠を最後に引き上げましたが、ちびっ子が2匹入っているだけでした。ホストファザーが虚しそうに海に返しました。合計で7匹。これだけあれば十分です。地元の人に何度も見せてくれと言われ、ホストファザーも得意げでしたので、安心しました。

家に戻ってきました。例の通り荒めの運転により、車内には海水が飛び散っていましたが、幸いにもカニはバケツの中にいました。キッチンに持っていき、茹でて先に動きを止めます。

次々に茹でられていきます。少し悲しいですが、命をいただくとはこういうことですね。店頭に並んだ商品を買うより、ずっと勉強になります。

全て没しました。

ここから、下処理に入ります。脚の先の尖った部分をハサミで切り落としていきます。

そうして、甲羅をひっぺがし、カニ味噌を豪快に捨てます。嘘だろ。カニ味噌は汚れだというのです。カニの身以外を全て綺麗に洗い流していきます。調べると、レッドロッククラブは、カニの身こそ少ないが、カニ味噌は絶品との記述を発見しました。何ということだ。このカニの中で一番美味しい部分を捨てている。日本ではカニ味噌を使って、味噌汁やソースを作るよと言って説得を試みると、色々な食文化があるよね全てを尊重するよという論調で説き伏せられました。全てのカニ味噌はダストボックスに収まったのです。贅沢なダストボックスだこと。

さて、身以外を全て取り除き、すっかり綺麗になったところで、下処理は終了。ここから先は、ステラによる調理です。

出来上がりました。身は小さく、殻いっぱいに詰まっているわけではありません。満足に食べられるのは、爪くらいです。ズワイやタラバの方が日本人は好きでしょう。味は美味しいです。ジュワッとあふれ出る出汁は、しっかりとカニの味がします。味付けは青臭く、はじめはしんどい思いをしましたが、食べているうちにくせになってきました。カニの身をほじくると静かになるというのは、万国共通のようです。カニの殻をバキバキ剥く音、カニの身をチュッチュ吸う音が響きわたり、周囲の静寂を一層強調します。硬い甲羅に嫌気がさしたホストファザーは、いつもスパイスをすり潰しているすり鉢にカニを置き、石の棍棒で叩き割っていました。私もやりたくなったので、大して困ってもいないのに、ガンガン叩いて割りました。

それから、今日はホストファミリーのスタイルに合わせて、手だけを使って食事をしました。カニもライスも全て手掴みです。はじめは手が汚れることに抵抗がありましたが、考えてみれば日本人もカニに関しては手で食べるわけでありまして。そういうものだと割り切ってしまえば、手の方が器用に使えて食べやすい節もありました。さすがにタイ米はパラパラしていて、難しいという印象が拭えないまま食事を終えました。時間をかけて食べたものの、ほじくってばかりで大した量を食べていません。少しもの足りませんが、プラムを2つ食べて補いました。

楽しい時間を過ごしました。共同作業をすることにより、一体感も増しました。そして何より、神格化されましたので、少し立派になったような気がして気分がすこぶるいいのです。化けの皮が剥がれないうちにカニ捕りが終わってよかったです。化けたつもりはないのですが。素晴らしい休日でした。ありがとう、ホストファミリー。

新着ニュース一覧